歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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霊験亀山鉾 五代目松本幸四郎のゆかり

昨日まで歌舞伎座で上演されていた二月大歌舞伎

第三部通し狂言 霊験亀山鉾は、敵役の返り討ちを描いた鶴屋南北の名作。今回は片岡仁左衛門一世一代にて相勤め申し候と銘打たれての上演で、仁左衛門さんが極悪非道な主人公・藤田水衛門と、隠亡の八郎兵衛の二役の演じ納めをなさいました。

やはり仁左衛門さんの悪役は格別ですね…来月には79歳になられるということが本当に信じられないご活躍ぶりに驚くばかりでした。いったいどうなっているのでしょうか…

左眉の上のほくろが目印

鶴屋南北作品は冷酷で非道な登場人物や、残酷な殺しの場面が大変魅力的なことで知られています。現代の歌舞伎役者の中で南北の悪役を輝かせてこられたのは間違いなく仁左衛門さんだと思いますけれども、長い歴史を持つ歌舞伎ですから、そのルーツとなる方も存在します。仁左衛門さんの一世一代にちなみまして、ひとつその方もご紹介したいと思います。

 

それは「鼻高幸四郎」との愛称で知られていた江戸の名優・五代目松本幸四郎です。

五代目幸四郎は愛称の通りに鼻がとても高く、子どもが泣きだしてしまうほどにお顔がおそろしい方であったそうで、そのビジュアルの凄みを生かした悪役で大活躍。「古今無類」と呼ばれるほどの大スターであったそうです。

顔の怖さを生かしてスターに…いうことがあるのですから、芸能の世界はわからないものですね。もちろん見た目だけではなく、素材に適した芸を磨いたからこそスターなのですけれども。人柄は顔面とは裏腹、おだやかで優しい方であったと伝わっていますよ。

鶴屋南北はそんな五代目幸四郎のため、極悪非道な悪役が登場する名作を数多く創作し、現代まで残されています。今回上演された「霊験亀山鉾」もそのひとつです。

長い歴史のなかたくさんの芝居が失われていますが、継続や復活など方法は様々ながら2023年まで残っているというだけでも、その魅力の程が知れます。

 

この絵に書かれているのも、まさしく五代目松本幸四郎の藤川水右衛門(藤田水右衛門)です。絵では実際の鼻がわかりませんが、役者絵の名手である三代豊国の画力でカッコよくデフォルメされてもこんなに大きいということは、実際はもっと強烈なインパクトがあっただろうと思われます。

歌川豊国 東海道五十三次之内 亀山 藤川水右衛門(部分)/国立国会図書館デジタルコレクション

 

五代目幸四郎ゆかりの役どころはたくさんあり、わかりやすい見分け方があります。

それは左眉の上のほくろです。白塗りのお化粧の上から、わざわざ大きなほくろを描くのが習いとなっているのです。たくさんの役がありますので、ぜひ探してみてください。

今回の仁左衛門さんも左眉の上にほくろを描いていらっしゃいました。200年以上歌舞伎役者の顔の上に残され続ける五代目幸四郎のほくろというのは、一体どれほどインパクトのあるほくろだったのかと思ってしまいますけれども、それだけゆかりの役が多く、芝居の世界で長く敬愛されてきたということなのでしょうね。

 

それはそうと、歌舞伎のお芝居の中では、人物の識別をほくろに頼っていることが結構あって、なんだかおもしろいですよね。現代人にとっては手術で取れてしまうものですけれども、江戸時代においてはそう簡単ではなかったでしょうから、顔のほくろはそれなりに思い入れのあるものだったのかもしれません。

写真というものがなかったことを考えますと、人物を記憶するときに案外ほくろが役に立っていたのかなとも思います。江戸時代人ならではの記憶術のひとつだったのかもしれませんね。

 

霊験亀山鉾 物語全体のあらすじはこちらにまとめてあります。配信の際などにお役立ていただければ幸いです。

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参考文献:新版歌舞伎事典/かぶき手帖/日本大百科全書/平成二十九年十月国立劇場歌舞伎公演上演台本霊験亀山鉾

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