歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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月岡芳年の描く切られ与三 「新撰東錦絵 於富与三郎話」

いよいよゴールデンウィークが始まりましたね。みなさまいかがお過ごしでしょうか。

このすえひろはといえば、家のテレビで映画を見たりプロ野球を見たりして過ごしております。表はどこも混雑していますから、文明の利器により家での楽しみが増え、大変ありがたく思います。

そういえば明日BS松竹東急で「荒川の佐吉」が放送されますね!2010年新橋演舞場、仁左衛門さんと吉右衛門さんのご共演での舞台です。貴重な舞台映像を無料で放送して下さるというのはありがたい限りです。

それはさておき、歌舞伎座の鳳凰祭四月大歌舞伎夜の部で上演されていた「与話情浮名横櫛」は浮世絵でも人気の題材であったようで、パブリックドメイン作品がたくさんあります。せっかくですのでひとつご紹介したいと思います。

月岡芳年 「新撰東錦絵 於富与三郎話」

ミネアポリス美術館蔵 月岡芳年「新撰東錦絵 於富与三郎話」(パブリックドメイン)

 

与話情浮名横櫛、いわゆるお富与三郎を題材とした浮世絵は数多く、役者絵を中心にさまざまな作品が見つかります。

なかでも幕末期から明治にかけて活躍した浮世絵師・月岡芳年が描いた「新撰東錦絵 於富与三郎話」(明治18年)は、与三郎と蝙蝠安がお富の妾宅に乗り込む直前…という斬新なシーンを描いています。

芝居を見た直後なので、もしかしたら乗り込んでから一旦引き揚げるところかも?と一瞬思いましたが、与三郎が手拭いをかぶっているので、これはやはり乗り込む直前ですね。

出版当時の人々は、この直前シーンの絵を見ることで「イヤサお富、久しぶりだなあ」の名セリフを思い出していたのでしょう。後ろには新内節の弾き語りと思われる人々の姿も見えますから、きっと芝居の空気感をそのまま感じられるような一枚だったのではないでしょうか。役者の似顔をがっつりと描くものだけが芝居の浮世絵ではないのだな、という発見がありました。

 

 

「血みどろ絵」で有名な芳年らしく、与三郎の傷にリアリティがあってかなり痛そうなところもおもしろいですね。首筋をがっつり切られていて、よく生きていたなと思われます。すらりとした立ち姿、綺麗な鼻筋が、仁左衛門さんの与三郎さながらです。

 

 

一方、蝙蝠安のトレードマークであるコウモリのタトゥーは薄くて、青ひげにまぎれてしまっていますね。着物の柄から手拭いの模様まできっちりと描く芳年の几帳面さがたまらなく好きです。

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