東京は蒸し暑い日でしたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
おつらい気持ちを抱えていらっしゃる方が大勢いらっしゃることと思います。ただでさえ体調を崩しやすい季節ですから、どうぞご無理なさらないようご自愛ください。
このすえひろも、歌舞伎から少し心を離し、スポーツを見たりお笑いを見たりして、別の物事に心を寄せる時間を少しでも増やすよう努めています。先のことはわかりませんが、どうか歌舞伎の世界により良い未来があることを祈っています。
昨日、歌舞伎座へ出かけまして團菊祭五月大歌舞伎の夜の部を拝見してまいりました。備忘録として少しばかり感想をしたためたいと思います。
圧巻の群舞
團菊祭五月大歌舞伎の夜の部は「宮島のだんまり」「春をよぶ二月堂お水取り 達陀」「梅雨小袖昔八丈 髪結新三」という狂言立てです。
「宮島のだんまり」は、厳島神社を舞台としただんまり。だんまりというのは暗闇の中で登場人物たちが互いに探り合うようすを様式的に表現したワンシーンです。
今回は雀右衛門さんの傾城実は盗賊、又五郎さんの畠山重忠、歌六さんの平清盛といったお顔ぶれでの上演でした。雀右衛門さんの六方はなかなか見られませんよね!
80代の東蔵さんが前髪の若衆をお勤めになっていたのが大変印象深く、可愛らしかったです。お元気なごようすに安堵いたしました。
「春をよぶ二月堂お水取り 達陀」は、東大寺二月堂で行われる修二会を題材とした二代目松緑ゆかりの舞踊劇です。僧集慶を松緑さん、幻想の集慶を左近さん、青衣の女人を梅枝さん、堂童子を坂東亀蔵さんがお勤めになり、練行衆として大勢の役者さんがご出演です。
私自身この演目に長らく憧れており、いつか生で拝見したかった念願の上演でした。数年前にNHKで放送されたお水取り生中継なる番組を拝見し、さらに二月堂にも足を運んで建物を見学しておりましたので、舞台上での再現の度合いと演出のおもしろさに改めて感動した次第です。特に音楽と陰影の表現が素晴らしく心奪われました。
ストイックな祈りの世界にもたらされる、梅枝さんの哀愁と彩り。若狭という固有名詞を求めながらも青衣の女人という一般名詞のなかに収められる悲しみが痛切なものとして伝わってきました。そして僧集慶もまた個を失い、練行衆に紛れてひたすらに祈りを捧げる結末に、群舞という表現の必然性を感じました。本当に拝見でき感無量です。
また、あれほど大勢の方々のなかでも鷹之資さんの凄まじいキレに目を奪われました…幕見が今月から始まっていれば通いましたのに。
最後の「梅雨小袖昔八丈 髪結新三」は、河竹黙阿弥の世話物の名作。今回は冒頭に短い解説がつき、実に2時間半近い上演時間です。世間共通の知識も変わり、世話物であっても解説は必要なのではないかと感じていたところでしたので、私は親切だと思いました。
今回は菊之助さんの新三、児太郎さんのお熊、萬太郎さんの忠七、権十郎さんの大家、彦三郎さんの源七という全体的にお若い配役です。勝奴に菊次さんは大抜擢でしたね!
菊之助さんの新三は前回の上演に比べて、生々しい危険さ、怖さを感じたように思います。少し不良の愛嬌のようなものが垣間見えてほっと笑えるようになるのは大家さんが登場してからで、それまではこの人に関わったら人生アウトというような底知れぬ怖さがありました。これまで拝見した中で一番怖くて悪い新三と感じていたのは三津五郎さんだったのですが、その次くらいに怖かったです。あれは何なのでしょうか。