歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい大江山酒呑童子 その三 日本三大妖怪・酒呑童子伝説とは

ただいま歌舞伎座で上演中の八月納涼歌舞伎

毎年夏休みのお馴染み、若手花形の方々を中心とした爽やかな公演です。

第一部で上演されている「大江山酒呑童子」は、源頼光の酒呑童子退治を題材とした十七代中村勘三郎ゆかりの舞踊劇です。今回は十七代の孫にあたる勘九郎さんと七之助さんがご出演で、注目を集めているのではないかと思います。

大江山酒吞童子は今回上演の舞踊作品に限らずとても重要な題材ですので、この機会に少しばかりお話したいと思います。芝居見物や配信など、何らかのお役に立てれば嬉しく思います。

日本三大妖怪・酒呑童子伝説とは

今月上演されている大江山酒吞童子(おおえやましゅてんどうじ)は、昭和38年に歌舞伎座にて十七代目勘三郎によって初演された萩原雪夫作の舞踊作品です。

一条天皇の頃に大江山に出没したという鬼・酒呑童子を題材としており、説話から芝居、浄瑠璃、浮世絵、映画などなど、長らく日本人のあいだで親しまれているお馴染みの物語であります。

大江山鬼人退治(部分)国立国会図書館デジタルコレクション

 

酒呑童子は一説によれば「日本三大妖怪」のひとつにも数えられている、大変有名な伝説です。もとは14世紀の「大江山絵詞」ではないかといわれています。有名といっても現代人にとってははるか昔のお話ですので、一体どんなものなのかについて、改めておさらいしてみたいと思います。(諸説あり)

 

時は平安時代、一条天皇のころ。平安京で多くの人々が行方不明になってしまい、しかも被害者の身分や性別もさまざまとあり捜査は難航、社会は混乱を極めていました。

あの陰陽師・安倍晴明が占ったところ、「丹後の大江山にいる酒呑童子のしわざである」との結果に。そこで、帝は源頼光に酒吞童子の退治を命じました。

 

源頼光は藤原保昌と、四天王の碓井貞光、卜部季武、渡辺綱、坂田公時とともに、大江山へ向かいます。

その道中、住吉・八幡・熊野の神様の化身たちが、鬼を討伐するためのアイテムを二つ授けてくれました。一つは鬼の攻撃力を封じるお酒「神便鬼毒酒(じんべんきどくしゅ)」、もう一つはこちらの防御力を上げる「星兜(ほしかぶと)」なるものです。

 

攻撃力・防御力ともにグレードアップした一行は、山伏に変装してさらに進みます。そしてついに、童子のすまい「鉄の御所」にたどり着き、酒呑童子と面会しました。

山伏が来てくれたんだと信じた酒呑童子は、血のお酒や人肉などのホラーなメニューで頼光一行をもてなします。そして、頼光一行からの手土産のアイテム①「神便鬼毒酒」をぐびぐびと飲み、べろんべろんに酔いつぶれてしまいます。

 

それを見計らい、頼光一行はアイテム②「星兜」を装着。酒呑童子の首を斬り落とします。そして、酒呑童子が従えていたさまざまな鬼たちも討伐、さらに命のあった行方不明の人々を救出、ヒーローらしく都へと帰って行ったのでした。

 

しかしながら、酒呑童子の立場に立って考えれば、これは頼光一行による騙し討ちなわけです。

酒呑童子は首を斬られてもなお激しく抵抗し、「鬼に横道なきものを(鬼は道に外れた卑怯なまねはしない)」と言い放ったといわれています。

鬼は単なる怪物ではなくなんらかの反体制的存在を象徴しているという背景を考えると、この一言がなんだかとても重いですね。鬼には鬼なりの事情や美学、悲しい背景があるという構図は、現代のヒット作「鬼滅の刃」に通ずるものがあります。

 

参考文献:日本大百科全書・朝日日本歴史人物事典・新版 日本架空伝承人名事典・国史大辞典・糸井文庫閲覧システム

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