十月も後半戦というところですがみなさまいかがお過ごしでしょうか。
このすえひろはといえば、近ごろは秋にかこつけてきのこばかり食しております。一年中売られてはいるのですが、やはり秋に食べるきのこというのは格別のような気がします。子供の頃はさほど好きではなかったきのこが年々おいしく感じられ幸せです。
さて、先日のお話ですが、歌舞伎座へ出かけまして錦秋十月大歌舞伎の昼の部を拝見してまいりました。備忘録として少しばかり感想をしたためたいと思います。
錦秋十月大歌舞伎 昼の部 2023年10月
錦秋十月大歌舞伎 昼の部は「天竺徳兵衛韓噺」「文七元結物語」という狂言立てでした。平日の昼間でしたが大変にぎわっていて驚きました。外国の方も多くおいでになっていて、ロビーにぎにぎしく活気にあふれていてうれしかったです。歌舞伎座は華やかな空間ですから、にぎわいがよくが似合いますね。
「天竺徳兵衛韓噺」は、実在した東南アジア帰りの商人徳兵衛をモデルにした南北のお芝居。お家騒動あり、妖術あり、巨大ガマまで出現…という南北らしい奇想天外な物語です。今となってはごく普通の「東南アジア帰り」という要素が、江戸時代の人にとってはこの上なくファンタジックなものであったのだろうなと伺えて、おもしろく思います。
今回の徳兵衛は松緑さんがお勤めになっていました、珍しいパーマのヘアスタイルがよく似合っていましたね。沖縄から天竺へかけての旅の思い出披露のくだりでは、スキューバダイビングやギャンブルなど妙に浮かれた旅程がおもしろく、客席も大変盛り上がっていました。
なにより大きなガマに乗ったようすがポスターさながら浮世絵のようで、大変絵になっていて興奮しました。それから松緑さんご本人がガマから出てきたシーンも驚きでした。まさかご本人がなさっているとは。
天竺徳兵衛韓噺は芝居としてものすごく面白いかというと何とも言い難いのですが、視覚的刺激のあるエンターテインメントとしてはとても楽しいですね。大薩摩も高揚いたしました。盛況でしたし、今後、上演が増えるのではないでしょうか。
続く「文七元結物語」は、圓朝の落語「文七元結」を基にした作品です。同じ題材で別の歌舞伎作品もありますが、今回は山田洋次監督の新演出での上演でした。大道具や照明も全く異なり、興味深い上演機会であります。
主な配役は長兵衛に獅童さん、女房お兼に寺島しのぶさん、文七に新悟さんというものです。寺島しのぶさんが音羽屋の役者として歌舞伎の舞台に立たれるという非常に珍しい機会で、テレビなどでも話題を呼んでいます。
今回は新演出ということで、お久が自らを売りに行く角海老のシーンが割と長尺で設けられていました。おかみさんをお勤めになっていた孝太郎さんが、いつもの歌舞伎のお芝居とはお声が少し違うように感じられ新鮮でした。こちらもカッコよかったです。
長兵衛が文七に五十両を渡す動機については、自分自身がこれまで感じていたものと違い、こうした解釈もあるのだなあと新鮮に感じました。どういうわけか土壇場で五十両を渡してしまう、それが人情なのであり、人の心が多面体であることがうまく表現された物語だ。なんなら、そうした人の心のおもしろみを描いているのが落語なのだろう…などと思っていたからです。そこへ、「神様」という存在が突然出てきたのは驚きでした。
新悟さんが昼の部夜の部とあらゆるお役で大活躍なさっていたのも印象的でした。「文七元結物語」の芝居は非常に魅力的でしたので、ぜひ映像作品にもご出演になってほしいなあなどと思った次第です。