本日26日は、初代国立劇場主催の最後の歌舞伎公演 令和5年10月歌舞伎公演『妹背山婦女庭訓』<第二部>の千穐楽でしたね。おめでとうございます。57年の歴史を持つ初代国立劇場は、今月をもって閉場となります。
このすえひろは昨日出かけまして、劇場じゅうを歩き回ってその空気をじっくりと味わい、感謝とお別れを伝えてきました。ありがとうございました。
国立劇場は建物、音響、客席からの視界、椅子の座り心地、食堂のようすに至るまでとても心地よく、大好きな劇場でした。ここだけ時間ゆっくりと流れているような、そんな場所でした。芝居はもちろんのこと、三味線の音を聞くには、国立劇場ほどよい劇場はないのではないかと思います。本当に得難い劇場でした。
思い出もたくさん、書ききれないほどにあります。できれば最後に菊五郎さんのお姿を拝見したかったですが、ご本人は考えられないほどにおつらいことと想像します。
お正月恒例の菊五郎さんのお姿、大いに笑った楽しい時間を思い出し、じっくりとかみしめておりました。あのほのぼのとした空気感は、国立劇場の空間であるからこそのものですね。
閉場後の国立劇場は、一体どうなってしまうのでしょうか。
働いていた皆様や興味深い資料が販売されていた売店の出版物などはどうなるのか、閉場中に膨大な視聴覚資料を見る術はないのか、今後も各種の伝統芸能公演は本当にコンスタントに開催されるのか、それによって不利益を被る方が現れたら補償はなされるのか、何より再開場の日は一体いつになるのか、不安と焦りで胸がいっぱいになります。
国立劇場は歌舞伎のみならず、この国の伝統芸能の殿堂であると認識しています。
伝統芸能などの無形文化財というのは、文字通り形がなく、いま生きている人の命のなかにあるものです。伝える人、伝えられる人、ともに生きている間に受け継いでいかねばならないのに、人が生きて活動できる期間というのは想像以上に短く、健康上、経済上、様々なリスクが付きまといます。
そのように不安定で儚いものを何故残していかなければならないのかといえば、突き詰めれば現代および未来の人の心を守るためだと思います。
各国の伝統芸能のなかにあるのは、その国に暮らしてきた人々が代々受け継いできた美意識や記憶、信仰、喜び悲しみ、そして葛藤の結晶です。そしてそれは現代を生きる人が困難な状況を乗り越えたり、明日に命を繋ぐためのヒントになり得るものだと私は思っています。
そのように大切なものであり、一度失えば取り返すのは非常に困難なものであるにもかかわらず、日本では今まったくもって先行き不透明な状態に放り出されてしまうというのは、非常に悲しい状況で、怒りさえ覚えています。
恥ずかしく、情けなくも思います。自分が努力の末に何らかの力を得て、直接的に経済的利益をもたらすべく活動できていれば、このような状況を避けることができたのでしょうか。かといって一体何ができたのか、答えは出ませんが。
いつの日か必ず、第二期国立劇場に足を運ぶことができますように。そしてせめて閉場期間中、視聴覚資料が保護され、一般閲覧が許可されますようにと願うばかりです。こちらについては必ず要望を送ろうと思います。くろごちゃんの続投も。