関東では雪の予報が出ていますね。みなさまいかがお過ごしでしょうか。健康と安全にお気をつけてお過ごしください。
このすえひろはといえば先日、小津安二郎監督の映画『麦秋』(1951年)を見ました。歌舞伎座で河内山を見るシーン、ラジオからそのセリフを聴くシーンがあり、どなたの声なんだろうなあとワクワクしたのですが、歌舞伎役者のものではなく最後の幇間としても有名な悠玄亭玉介の声色とのことでした(上村以和於氏の髄談より)。
声色というのはいわゆる声真似芸のことですね。悠玄亭玉介が得意としたのは十五代羽左衛門や初代吉右衛門の声色であったとのことで、CDも発売されているようです。歌舞伎役者の声真似が生業となるほど歌舞伎がエンターテインメントの中心にあった時代をぜひ過ごしてみたかったです。とはいうものの、2024年の今も歌舞伎興行が残っているというのは驚くべきことだなと改めて気づかされます。
さて、先日のお話ですが浅草公会堂へ出かけまして新春浅草歌舞伎の第一部・第二部を拝見してまいりました。備忘録として少しばかり感想をしたためておきたいと思います。
集大成の浅草歌舞伎
新春浅草歌舞伎は、若手花形役者の方々がベテランの指導のもと古典の大役に挑むという若手の登竜門的公演です。ここ10年ほどは松也さんを中心とする同世代メンバーでの上演が続いていましたが、今年で卒業となり次世代へバトンタッチされるとのことです。
このすえひろも現メンバーの浅草歌舞伎は初回より毎回拝見しておりましたので、非常に感慨深く思います。松也さんの代の前は猿之助さんや愛之助さんがご活躍だったので、松也さんが当時の猿之助さんと同じくらいのご年齢になられたんだなあと思うと時の流れの速さに驚きます。
この間、様々な別れがあり、正直なところ未来の歌舞伎への希望を失いかけることもありました。今回の浅草歌舞伎は、絶望していたらもったいないぞと喝を入れていただいたような、集大成として素晴らしい公演で、胸がいっぱいです。
私などが申すのもおこがましいのですが、10年前とは比べ物にならないほど見応えにあふれ、遥かなる古典の頂とご自身の持ち味を光らせる芸への愛をひしひしと感じました。客席の自分が勝手にしおれて絶望している時も、出演者の方々は過去に学び、ひたむきに精進され、自分の場所を見つけて一歩一歩積み重ねてこられたんだと改めて気づかされます。次にこの皆さまが揃うお芝居を拝見できるのはいつになるのかなあと思いますと、なんだか切なくなり涙が出ました。10年の歳月を客席から目撃できたことを心から幸せに思います。
上演演目はどれも素晴らしく充実の時間でしたが、特に印象深いのは「源氏店」「熊谷陣屋」「魚屋宗五郎」の三本でしょうか…。隼人さんの与三郎に米吉さんのお富、歌昇さんの熊谷、松也さんの宗五郎、それぞれが適材適所の配役で魅力が生きていました。
口上で子役の方のことをよく「海の物とも山の物ともわかりませんが」と言いますが、家の芸と持って生まれた素材、そして立場上与えられるポジションのなかで、自分自身の持ち味を掴んで生かすことがどれほど大変なことなのか。持ち味を掴んだ皆様がますます輝きを増す将来が本当に楽しみです。
もう一度通して拝見しますので、それぞれの芝居を存分に味わい噛みしめたいと思います。