歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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国立劇場主催 令和6年 初春歌舞伎公演を見てきました!

ここのところ寒い日が続きますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

このすえひろはといえば、唐突に小津安二郎監督作品を全制覇したいという欲求が湧いてきまして、サブスクリプションサービスを駆使しております。映像を勉強していた学生のころは学校の資料室やレンタルショップに通わなければならず労力も経済面も大変でしたが、便利な時代になってありがたい限りです。現代の学生の方々は様々な作品に触れることができ、感性も豊かに磨かれていることと思います。将来生まれてくる作品が本当に楽しみです。

さて、先日のお話ですが、初台の新国立劇場へ出かけまして令和6年初春歌舞伎公演を拝見してまいりました。備忘録として少しばかり感想をしたためておきたいと思います。

相変わらず梅枝さんがすごすぎる

半蔵門の国立劇場が閉場し、今回のお正月公演は初台の新国立劇場で上演されています。オペラやバレエなどが上演される劇場で、花道はなく座席が円形に配置されているつくりです。

花道はなく、袖の通路を出入口のようにして使用していました。音響は西洋音楽用の響き方なのか、セリフが前に押し出されて来るような聞こえ方で新鮮でした。ロビーの空間も、歌舞伎座や国立劇場とは雰囲気が全く違って、美術館のようです。真面目な芸術鑑賞の雰囲気といいますか、慣れ親しんだ歌舞伎を見に行っているのに、どこかよそ行きの感覚になってそわそわしてしまいました。舞台に設えられたちょうちんが芝居らしい空気を醸し出していて、ほっとしました。ぜひ今後も設置してほしいです。

また、国立劇場ではあった上演台本の販売がなくなっていたのが残念でした…(見落としていただけかもしれませんが)。書店の文化堂がなくなってしまったためでしょうか…。非常に残念に思います。ぜひ復活を検討いただきたいです。

 

演目は「梶原平三誉石切」「芦屋道満大内鑑 葛の葉」「勢獅子門出初台」の三本立てでした。初台に行き慣れないので躊躇していたのですが、親しい人から梅枝さんが出ずっぱりと聞いて駆け付けた次第です。

梅枝さんを目当てにまいりましたので、やはり特に印象深かったのは「葛の葉」であります。早変わりの際あまりに何げなくお出ましになるので、客席が本気で驚いてしまってどよどよとどよめくことしばしばでした。

様々なケレン演出もさることながら、母の愛、妻の愛がひしひしと感じられ、胸に迫りました。そんな葛の葉であるから、保名の「狐を妻に持ったりと笑う人は笑ひもせよ。我はちっとも恥ずかしからず」というセリフがぐっと胸に響きます。とてもいいセリフですよね。夫婦の過ごした歳月が感じられます。

「石切梶原」は菊之助さんの梶原。吉右衛門さんを踏襲してのお芝居であることがよく伝わってきました。新国立劇場の音響では菊之助さんのお声の綺麗さが際立っていて、瑞々しい梶原でした。

「勢獅子」では菊五郎さんのお姿を拝見できうれしい限りでした。腰のお加減はやはり以前とは異なるようすでしたが、菊五郎さんを拝見しないと国立の初芝居という気がしません。今年も元気なお姿を拝見できることを楽しみにしております。

 

上演台本はなくなってしまいましたが、筋書は小さいサイズながら販売されていました。購入して帰り、梅枝さんのインタビューを拝読したところ、昨年あまりの仕上がりに度肝を抜かれた初役の鎌倉三代記時姫について「手も足も出ませんでした」とおっしゃっていて、ひいいとなりました。一般向けのインタビューであってもおっしゃっていることが常にハイレベルでドキドキします。

梅枝さんの目指す高みを味わうには、完全体の芝居をもっと知らねばならないんだなと気持ちが引き締まります。梅枝さんは今後どうなってしまうのでしょうか。すごすぎます。同世代に生まれたことを本当に幸せに思います。

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