ただいま歌舞伎座で上演中の
芸術祭十月大歌舞伎!
夜の部「助六曲輪初花桜」は仁左衛門さんが江戸一の色男・助六さんをお勤めになっていますね。
勘三郎さんの追善興行ということで勘九郎さん・七之助さんの御兄弟と玉三郎さんまでご登場という、
大変ぜいたくで貴重な機会として話題を呼んでおります。
この機会に少しばかりお話いたしますので、なんらかのお役に立てればうれしく思います。
モデルはまさかのお煎餅
江戸一番のイケメンとして吉原中でも大評判の助六さんは実は、
父の敵を討たんとしている曽我五郎時致(そがのごろうときむね)であり、
源氏の宝刀・友切丸を探し出したいがために、いろいろな人に喧嘩をふっかけては
刀を抜かせようとしている…という事情がありました。
いろいろな人を怒らせては暴れまわる助六でしたが、
ちょっとしたもめごとを成敗してみせ、カッコいいところを見せつけてくれます。
急いでいた福山かつぎにうどんの箱をぶつけられ、
因縁をつけたのは威張り散らしている意休の子分、くわんぺら門兵衛。
助六は福山かつぎをいつまでも許してやらないくわんぺら門兵衛をたしなめますが、
それでも面倒なことを言うので頭からうどんをぶっかけてみせる…という爽快なくだりがありました。
くわんぺら門兵衛がぎゃ~!斬られた斬られたと騒いでいるところへ、
アサガオ柄のど派手な出で立ちをした珍妙な男が登場しましたね。
この男も意休の子分の一人、朝顔仙平(あさがおせんぺい)です。
実はこの強烈なキャラクターは、
「朝顔煎餅」という当時の人気があったお菓子の擬人化なのです!
現代においても「擬人化」という工夫は大変人気があるそうで、
人間ではない何かをイケメン化したり美少女化したりするゲームなどが存在するそうですけれども、
この時代からあったのだと思うと、発想力に驚くばかりです。
朝顔煎餅というのは、北八丁堀の有馬清左衛門のお店で売りだした
朝顔のかたちをしたお煎餅だったそうですが、
この有馬清左衛門という人物がいかした男伊達であったために
助六にも登場させようというあそび心が働いたようです。
朝顔仙平のせりふをよく聞いてみますと、
砂糖煎餅が孫、羽衣煎餅はおらが姉様、
双六煎餅とは行逢い兄弟、姿見煎餅はおらがいとこ、
竹村の堅巻き煎餅が親分、朝顔仙平という色奴様だ
というせんべい尽くしになっているのがおもしろいところです。
これらのおせんべいは実際に江戸で売られ人気であった品物だそうですから、
助六の登場人物にPRしてもらうことで相当なコマーシャル効果があったのではないでしょうか。
余談ですが現在の歌舞伎座の前にも、七福神でお馴染みの幸煎餅がありますね!
このすえひろは甘い物よりもおせんべいが大好物ですので、
今度ひとつ求めてみたいと思います(´▽`)
参考文献:歌舞伎登場人物事典