歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

広告

やさしい菊畑 その四 ざっくりとしたあらすじ③

ただいま歌舞伎座で上演中の吉例顔見世大歌舞伎

夜の部「菊畑」は梅玉さんの部屋子として長らくご活躍であった

中村梅丸さんが養子となられ、中村莟玉のお名前を披露された記念すべき演目です。

せっかくですので、この機会に少しばかりお話してみます!

芝居見物のお役に立てればうれしく思います。

金剛杖をおっとって…

菊畑(きくばたけ)は、鬼一法眼三略巻(きいちほうげんさんりゃくのまき)という

全五段にわたる演目のうちの三段目にあたる部分です。

1731年(享保16年)の9月に大坂は道頓堀の竹本座にて人形浄瑠璃として初演され、

12月に同じく大坂は嵐国石座にて歌舞伎に移入された演目であります。

 

同じく鬼一法眼三略巻の、四段目にあたる部分が「一条大蔵譚」という名前で独立して上演されることも多く、

鬼一法眼三略巻といえば「菊畑」か「一条大蔵譚」のどちらかといった具合です。

 

タイトルにある鬼一法眼三略巻(=虎の巻)が両方登場するのが菊畑なのですが、

どちらも万人に知られているともいえない固有名詞でイメージしづらく、

初めてご覧になる場合は少しわかりにくい部分があるかと思います。

この機会に、ごく簡単にあらすじをお話しております。

www.suehiroya-suehiro.com

②では、奴と思われた智恵内が実は鬼一法眼の末の弟であり、

鬼一法眼の所持する六韜三略の虎の巻を手に入れるべく

虎蔵こと牛若丸とともにこの館に潜入していたのだ…というところまでお話いたしました。

 

そもそも虎蔵はこの日、

鬼一法眼の娘である皆鶴姫のお供として平清盛の元へ使いに出ていたのですが、

この鬼一法眼の館へ一人で戻ってきてしまいました。

なんでも、皆鶴姫は清盛の息子の重盛のところへ行ったのだそう。

そして、鬼一の熊野に忍ばせていた弟2人の詮議のため

笠原堪海を遣わせる…という伝言を受けとってきました。

笠原堪海というのは平家方のさむらいで鬼一の弟子なのですが、とても傲慢なタイプ。

歌舞伎に出てくる嫌なやつとしてはおなじみの人柄であります。

 

これを聞いて、鬼一は大激怒!

皆鶴姫のお供として遣わせたにもかかわらず、一人で戻ってくるとは何事か!と怒ります。

それだけでなく、智恵内に「杖で虎蔵を打て!」と命じるのです。

しかしながら、虎蔵は高貴なる牛若丸

とても主人を杖で打つことなどできない智恵内は強烈な葛藤を覚えます。

 

 

…と、この構図は、歌舞伎の名作としておなじみの「勧進帳」で

関守の富樫の目をあざむくために、弁慶が金剛杖をとって、

主君である義経をさんざんに打擲する場面にとてもよく似ていますね!

 

実はこの部分は「勧進帳」と同じく、能の「安宅」からとられた趣向であるといわれています。

こうなると、智恵内は実は弁慶なのではないか!?

と思いたくなりますが、そうではないというのもトラップであります。

 

義経の家臣といえば、なんらかの事情で義経を棒で打つことになってしまい、

強烈な葛藤を覚える…という図式があるあるとなっているのもおもしろいものです。

義経がいかに高貴なる人物、守らねばならぬ尊い人物として描かれているかということがよくわかります。 

 

これらを踏まえ総合しますと、

実は鬼一法眼虎蔵牛若丸であり、智恵内鬼三太であることを見抜いている…

その上で、わざと主君を杖で打てと言ったのかもしれないぞ…

ということが推察されはじめます。

 

そんな騒ぎの中へ、皆鶴姫が慌てて戻って割って入り、

一人で戻したのは私の落ち度なのです、どうか虎蔵を許してあげてください…とうろたえるところ

さきほど嫌なやつとしてご紹介した笠原湛海が登場します!

どんなやつなのかなあというところで次回に続きます!

 

参考文献:新版歌舞伎事典

新版 歌舞伎事典

新版 歌舞伎事典

 

今月の幕見席

www.suehiroya-suehiro.com

Copyright © 2013 SuehiroYoshikawa  All Rights Reserved.