歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい与話情浮名横櫛 その五 ざっくりとしたあらすじ④

先日いよいよ開幕した八月花形歌舞伎!待ちに待った再開であります。

昨日、関係者の方お一人の微熱により第三部「吉野山」が中止となりましたが、PCR検査で陰性とわかり本日より舞台は再開したそうですね!安堵いたしました。

 

その一方、宝塚歌劇団では感染がクラスターに認定されてしまったそうで大変に心配しております。。おそらく演劇界のなかでも水準の高いの厳格な対策が取られていたはずで、これは本当にどこでも起こりうることなのだという思いを強くしました。

この状況下での劇場の運営は本当に大変なことであるなとつくづく思います…どんな覚悟で迎えてくださっているのかを思いますと、出かける観客としても本当に体調管理には気をつけなければと気持ちが引き締まります。

新型コロナの心配はもちろんのこと暑さで体調を崩しやすい時期ですから、皆様ご安全にと願うばかりです。

 

さて、先月より第四部「与話情浮名横櫛」について少しずつお話しております。

感染予防の観点から今回は筋書の販売が行われず、簡易版の配布のみになっていましたので、今回初めてご覧になる方にとって何らかのお役に立てればうれしく思います。

イヤサお富久しぶりだなァ

与話情浮名横櫛(よわなさけうきなのよこぐし)

1853年(嘉永6)1月 江戸・中村座で初演された、三代目瀬川如皐作のお芝居です。

ごく簡単に流れのみお話いたしますと、こういったものです。

①商家の若旦那・与三郎が、いい女・お富と運命の恋に落ちる

②しかし、実はお富は、危険な筋の男・赤間源左衛門の女であった

③デートの現場に乗り込まれた与三郎は刃物でメタメタに切られ、お富は海に身を投げて命を落とした

④数年が経ち、傷だらけの与三郎は落ちぶれ、ならず者となってしまった

⑤ある日与三郎が強請りたかりで入った家に、死んだはずのお富。なんとお富は、違う男の妾になって囲われていた…!

 

江戸時代の人にとっての現代劇ともいえる「世話物」と呼ばれるジャンルの演目で、現代人にとってもセリフが聞き取りやすく内容も理解しやすいものではあるものの、せっかくですからあらすじをお話してみたいと思います。

今回の公演では主に⑤にあたる場面が上演されますが、よりわかりやすくなるよう①からごく簡単にお話しております。また舞台の上で起こることが前後したり、上演のタイミングや配役によって細部が少しずつ変わることがあります。その点ご容赦願いたく存じます。

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③では三年の月日が流れ、鎌倉源氏店の妾宅にお富が「和泉屋の一番番頭多左衛門の妾」というていで囲われているという状況についてお話いたしました。

一方メッタ斬りにされてぼろぼろになってしまった与三郎はどうなってしまったのか…と申しますと、奇遇にも与三郎も鎌倉に流れ着いています。

しかしながらまともな仕事には就いておらず、頬にコウモリの入れ墨を入れている蝙蝠安(こうもりやす)という小悪党と組んでゆすりたかりをしているのですが、お富はそんなことはつゆ知らず暮らしております。

 

さて、お富が和泉屋の番頭の藤八を呼び込んで暇つぶしをしている妾宅に、なにやら訪問者がありました。

なんとこの訪問者こそが蝙蝠安と与三郎。この二人の手口というのは、傷だらけの与三郎を見せつけて「治療・療養費をくれ」とせびる…というものでした。

 

蝙蝠安にはコウモリの入れ墨が入っていると申しましたのでKISSのような姿を想像されるかもしれませんが、あんなにハードな見た目ではなくてむしろハロウィンのような、ワンポイントという感じです。

その上にみすぼらしく身なりも整っておりませんで、与三郎の方はほっかむりで顔を隠し部屋の隅でじっと押し黙っている、なんだかもう怪しげな二人です。お富の方では早くお引き取り願いたいと思ってあしらおうとしますが、蝙蝠安はなかなか引き下がりません。

藤八が百文の金を出して返そうとしても「これっぽちか」と断られ、もう面倒になってしまったお富は「れっきとした主のある体だ」と啖呵を切って、一分ものお金を投げつけて返そうとします。

 

結構な額をたかることができたので蝙蝠安は喜んで帰ろうとしますが、部屋の隅っこでじっと聞いていた与三郎が突然、その金は返してしまえと言い出しました。

どうしたことかと蝙蝠安が戸惑っていますと、与三郎がお富に一歩一歩近づき…

エエ、ご新造さんえ、おかみさんえ、お富さんえ、イヤサお富、久しぶりだなァ」と一言。

ドキッとしたお富が「そういうお前は」と問うと、与三郎はパッと手ぬぐいを外して「与三郎だ おぬしは俺を見忘れたか」と名乗ります。

 

ここからは名台詞の見どころでありますので、ぜひその言葉のリズムを堪能していただきたいのですが、内容としては「こっちは散々な目に遭ったのに、かわいそうに死んでしまったと思ったお前がぬけぬけと生きていて、おまけにこんな妾暮らしをしていたとはな…」といったような恨み言であります。

なじられたお富は「妾とは名ばかりで実際には肉体関係などなく、与三郎を忘れたことはない!」と必死に訴えますが、与三郎は「そんな男があるものか、捕まえてやる!」と息巻いて、そうだそうだと加勢する蝙蝠安とともにいきり立ちます。

 

そんな混乱のなか、なにやら戸口にひとりの男が。

この人こそ、妾というていでお富を世話している多左衛門その人であります。

さあどうなってしまうのか、というところで次回に続きます!

 

参考文献:新版歌舞伎事典/歌舞伎オンステージ 与話情浮名横櫛

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