歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい於染久松色読販 土手のお六 その八 ざっくりとしたあらすじ④

ただいま歌舞伎座で上演されている二月大歌舞伎

第二部「於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)」は、しばしば上演される人気の演目です。上演形態はその時によりいろいろで、今月は三年前の2018年にも上演された場面が上演されています。

玉三郎さんの土手のお六と仁左衛門さんの鬼門の喜兵衛というワルなカップルが、ゆすりかたりをしようと画策するというものです。これが本当になんともいえない劇空間でありまして、このお二人のご共演でなければ味わえないものだなあとつくづく思います。

これまでにお話したものはありましたがお話し足りないので、お話を加えていきたいと思います。

ゆすりに油屋へ

於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)は、1813年(文化10)に江戸の森田座で初演された演目。質屋油屋の娘お染と丁稚の久松による心中事件を元ネタとした一連の作品群のひとつで、「大南北」と呼ばれた江戸の有名作者である四世鶴屋南北の作品です。

一人の役者が「お染久松」を含む7つの役を演じる趣向であるため「お染の七役」という通称でも知られてます。今月は上演されるのは7つの役のうち、「お六」が活躍する場面のみです。

お六は「悪婆(あくば)」と呼ばれる役どころで、下の絵でいうところの右上の役です。好きな人のためなら悪だって手を染めてしまう、そんな人物であります。

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於染久松色読販 四世鶴屋南北 国立国会図書館デジタルコレクション

あらすじをお話しておりますが、さまざまな条件により前後したり細かい内容が変わることがありますので、その点はどうぞご容赦ください。

③では、嫁菜売りと油屋の手代・九助の間に起きたトラブルの顛末を聞いた鬼門の喜兵衛が、早桶の中の遺体を使って油屋へゆすりに入ろうと悪だくみをするところまでお話いたしました。

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場面は変わりまして、翌日の油屋。

油屋はいまでいう墨田区の吾妻橋あたりの瓦町というところにある、立派な質屋さんであります。主人の太郎七さんや番頭さんをはじめこの質屋で働く人々が、帳簿と在庫を照らしあわせるなどの事務作業に精を出しているところです。

 

そんなところへ、さっぱりとした格子の着物に身を包んだ土手のお六が一人でやってきて、例の袷の着物を見せ、これに覚えはないかと尋ねてきました。

確かにこれは昨日、柳島の妙見さんで手代の九助がトラブルを起こしてけがをさせてしまった嫁菜売りに、詫びの品として渡したものではありますが、トラブルはそれで丸く収まっていたはずです。

 

それが何か…と言いたいところである油屋の人々は、お六から驚くべきことを聞かされます。なんと「あの嫁菜売りは自分の弟だ」などと言うのであります。

さらに喜兵衛という男がづかづかと乗り込んできて、額にきずのついたご遺体をゴロンと運び込み、「昨日お前らが殴ったから、打ちどころが悪くてこのように死んでしまった、どうしてくれる」と言うのです。

 

うわぁこれは大変なことだと油屋の人々がアワアワすると、喜兵衛お六はますます図に乗り「弟が殺されたんだ、古着とこれっぽっちの金で済むものか」などと恫喝行為、脅迫行為に及びます。

なんだか現代でも起こりそうな恐ろしいトラブル事例ですが、このときちょうど油屋に来ていた山家屋清兵衛さんがこのご遺体になにやら違和感を感じて、お灸をすえ始めました。

 

一方、とりあえずこの場はお金で解決するほかない…と思った太郎七さんは、まとまったお金を渡すことに。しかし喜兵衛お六は「こんなもので足りるか、百両出せ」とすごみ、油屋の人々は困り果ててしまいます。

この危険な夫婦をやり過ごすには、もう百両を渡すしかないのでしょうか…

 

と、そんなところへ、なんと死んだはずの嫁菜売りが「昨日はありがとうございました!」とあいさつをしにやってきたのです。

さらに死んだ嫁菜売りとされていたご遺体が息を吹き返し、油屋の丁稚・久太であったことが明らかになりました。久太は前の日にフグを食べてお腹を壊し、すっかり意識を失っていたのです。前髪を剃っていたのでわからなかったのですね。

 

 

 

あれほどすごんでいたことが全てウソであったことがバレてしまい、百両も手に入らず決まりの悪い喜兵衛お六は、駕籠をかついでサッサとずらかり、芝居もこれにて幕となります。

そもそもこんな詰めの甘い悪事が露見しないわけないだろうというところですが、それが芝居のおもしろいところではないかなあと思います。

公演の詳細

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