歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい源平布引滝 義賢最期 その九 ざっくりとしたあらすじ⑥

現在歌舞伎座で上演されている八月花形歌舞伎

第三部で上演されている「源平布引滝 義賢最期」は、幸四郎さんの義賢に高麗蔵さんの葵御前、梅枝さんの小万、隼人さんの折平に米吉さんの待宵姫という配役。緊張感あふれる素晴らしい一幕でした。

 

源平布引滝 義賢最期」については、過去にもお話したものがあります。下記の通り先日まとめましたが、肝心の内容についてはあまりお話していませんでした。今月少しばかりお話を足していきたいと思います。何らかのお役に立てればうれしく思います!

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義賢の壮絶な最期

義賢最期(よしかたさいご)は、「源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき)」という全五段のお芝居の一部が独立して上演されているものです。もとは人形浄瑠璃で、1749年(寛延2)11月の大坂竹本座にて初演、8年後の1757年(宝暦7)9月の大坂角の芝居で歌舞伎として上演されました。

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国立国会図書館デジタルコレクション 豊国「木曽六十九駅 須原木曽舘跡・義賢」

 

源平布引滝の二段目にあたる「義賢最期」の場面は長らく上演が絶えていましたが、当代の仁左衛門さんが昭和40年代にお勤めになって以来、人気の一幕となっています。

源平布引滝という題名の通り源平合戦を題材としたお芝居で、大筋はこのようなものです。

①時は平家全盛、源氏の再興を願う木曽先生義賢が、病気で館に引きこもっているところ、

②平家の使者たちが現れ、

③義賢はひとり立ち向かって命を落とす

このシンプルな筋にいろいろと複雑な事情が絡んでいきますので、詳しくお話してまいります。

 

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⑤では、清盛の命で乗り込んできた平家方のさむらい高橋判官・長田太郎が、源氏の白旗を持っているはずだと義賢を詮議しました。白旗など知らないと突っぱねる義賢でしたが、兄・義朝のしゃれこうべを踏むように迫られ、堪えきれずに長田太郎を斬り殺してしまいます。高橋判官に逃げられたので、間もなく平家の討手がここへやってくるであろうと予想され、義賢は絶対絶命のピンチに陥ったところでした。

 

 

義賢は逃げることなく、たった一人平家の討手に立ち向かい、この館で潔く討ち死にをすることを心に決めます。そして、伊豆へ流された頼朝とともにどうか平家を倒してくれよ…と源氏再興への思いを行綱に託し、待宵姫とともに落ち延びさせることにしました。

そうこうしているうちに、義賢の予想の通り、平家の軍兵たちがドンドンドンドンドンドンと大勢押し寄せてきます。義賢はこれに対し、防具をつけることなく礼服の素襖大紋で立ち向かいます。ここから幕切れまで、舞台の上では最大の見どころである大立ち回りが展開していきます。迫力満点でとてもカッコいい場面です。

 

そういえば、義賢の現在の妻・葵御前は、義賢の子を身ごもっていましたね。この子もまた源氏の血を引くものであり、打倒平家を叶えうる大切な存在ですから、絶対に守らねばなりません。義賢は、ちょうど訪ねてきていた九郎助に、葵御前の命を託します。別れがつらい葵御前、もちろん義賢もつらいのですが、やはりここは逃げねばらないのです。

大切な葵御前をいきなり知らないおじいさんに預けていいのかなというところですが、九郎助は頼もしい人物で、太郎吉とともに平家の討手に立ち向かいながら、葵御前を連れて逃げてくれます。緊迫した立ち回りの中でもユーモラスな場面です。悲劇的な場面の前には、必ずといっていいほどこうしたユーモラスな場面が入っています。

 

九郎助の娘の小万もまた、平家の軍兵に臆することなく立ち向かいます。小万は一般のお百姓さんの家庭に育った娘のはずですが、武術的な意味でもものすごく強い女性です。百にも千にも勝るという意味で「万」と名づけられているほどです。

 

平家の軍勢と激しい戦闘を繰り広げて血みどろの満身創痍、もはや息も絶え絶えとなった義賢は、この強く頼もしい小万に、大切な大切な源氏の白旗を預けることにします。

そして、背後に迫った平家の軍兵ごと自分の腹を突き刺し、平家に従った自分の運命がここで終わることをある意味ではよろこびながら、壮絶な最期のときを迎えるのでした。絶命し完全に脱力したように顔からバタンと倒れる「仏倒れ」と呼ばれる演出は大きな見どころです。

 

長くなりましたが、ここまでで「源平布引滝 義賢最期」の場面は幕となります。

とてもシンプルな筋ではあるものの、立ち回りのカッコよさで復活以来上演が続いています。義賢が置かれた状況、葛藤、スリルなどを味わいながら前半部分を堪能すると、立ち回りがよりおもしろくなるように感じています。

そういえば小万折平夫婦の問題は一体どうなったのだというところですが、この後日の話である「源平布引滝 実盛物語」ではショッキングな展開を迎えます。上演の機会があればこちらもぜひご覧くださいませ。

 

参考文献:新版歌舞伎事典/歌舞伎手帖/歌舞伎登場人物事典

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