みなさま現在放送中の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」はご覧になっていますか？
歌舞伎役者の方々がご出演というだけでなく、歌舞伎でお馴染みの時代が舞台ということで、このすえひろは毎週興奮しどおしで楽しく拝見しております。
きっと「鎌倉殿の13人」から歌舞伎の沼にはまられる方もおいでかと思いますので、ドラマを見ながら思った歌舞伎に関連することを、脈絡なくつらつら述べてみます。芝居見物の際の演目選びなど何らかのお役に立てればうれしいです。
この先、ネタバレを含みます。ネタバレを避けたい方はどうぞこの先をお読みにならないようお気を付けください。
前回のお話
「義経千本桜 すし屋」
大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は小栗旬さん演じる北条義時を主人公に、源頼朝の挙兵によって平家の栄華が終焉を迎え、武士の世へと転換していく激動の時代を描く物語。毎週毎週緊迫感のある展開で目が離せません。
この時代を描いた歌舞伎の演目はたくさんありますが、歴史上では最も有名な源頼朝本人が登場する演目は意外と少なく、物語の上では源義経や曽我兄弟、梶原平三などの周辺人物の方がお馴染みです。
近ごろの「鎌倉殿の13人」では、頼朝亡きあとの新たな鎌倉殿・頼家と、それを支える御家人たちの間に不協和音が生まれています。そんななかいわゆる「梶原景時の変」が起こり、獅童さんがお勤めの梶原景時が武士らしい最期を遂げるというエピソードが描かれました。
江戸の人々にとって梶原景時といえば、史実はさておき「悲劇の貴公子・義経を陥れた嫌なやつ」としてお馴染みであり、歌舞伎や浄瑠璃においても悪役として認識されます。前回は、そんな梶原景時が珍しくカッコよく描かれている演目として「石切梶原」をご紹介しましたが、深みのある描き方をされている演目が他にもありますのでご紹介いたします。
悪役でおなじみの梶原景時に、鋭い洞察力とスケール感を持たせて描いているのが「義経千本桜 すし屋」です。
義経千本桜は三大狂言の一つに数えられる名作中の名作で、壇ノ浦で滅ぼされた平家の武将たちが「実は生きていた」という設定の下で展開していきます。現在でも上演頻度の高い人気作ですので、ご覧になるチャンスは多いかと思います。
演目の内容を簡単にお話いたしますと、このようなものです。
平家の武将・平維盛は実は生きていて、大和下市村の鮓屋・弥左衛門の家に匿われている。この事実を知った弥左衛門のドラ息子・いがみの権太は、褒美の金ほしさに平維盛の首を取り、維盛の妻子を生け捕りにする。
維盛の情報を聞きつけた梶原景時が捕縛のために鮓屋に現れ、いがみの権太が取ったという維盛の首を実検する。梶原はこの首を維盛と認め、いがみの権太に褒美として頼朝の陣羽織を与えて去っていく。
怒りのあまり、権太を刺す弥左衛門。息も絶え絶えになった権太は、意外な事実を打ち明ける。
実は、維盛の首として差し出したのは、弥左衛門が事前に用意し隠していた身代わり首。維盛の妻子と見えたのは、権太自身の妻子であった。知略優れた梶原景時は、この計略をすべて見抜いたうえで、頼朝の陣羽織を与えたのである。
頼朝の陣羽織の中には維盛への出家を促すメッセージが込められていた。権太は、知恵を絞った自分の計略が無駄に終わったことを悟り、はかなく息を引き取るのだった。
世話物の世界で展開していく物語のなか、鎧武者を引き連れた梶原景時の登場は異質で、ぐっと緊張感が走ります。現れただけで弥左衛門一家がおののいてしまうような梶原の威圧感が、さむらいと町人という身分の違いを感じさせ、弥左衛門一家の悲劇をいっそう際立たせるようです。そのうえいがみの権太の命をかけた大博打のすべてを完全に見抜いている、スケールの大きさを感じさせます。
義経千本桜といいながら「すし屋」の場面には義経は登場しません。代わりに、鳥の音を源氏の軍勢と思い込んで逃げ出した逸話のある平維盛が登場します。「鎌倉殿の13人」でも描かれていましたね。
この逸話の印象のためか、「すし屋」の維盛は線の細い優男というキャラクター設定です。女形の方が演じることもあり、勇ましき武将とは思えぬ独特の柔らかみが魅力です。比較的上演頻度の高い演目ですので、チャンスがあればぜひご覧になってみてください！
