歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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【読書録】江戸の夢びらき 松井今朝子著

そろそろ一月も終わってしまいますがみなさまいかがお過ごしでしょうか。

このすえひろはといえば、来月の歌舞伎座の定額制観劇に向けて、予定をやりくりしております。幕間の食事が解禁になりましたので、たまにはお弁当も楽しんでみようかと。とても楽しみです。

それはさておき、近ごろ読んだ書物のなかからおもしろかったものやお役に立ちそうなものを備忘録を兼ねてご紹介いたします。なんらかのお役に立てればうれしく思います。

江戸の夢びらき 松井今朝子著

松井今朝子さんの小説「江戸の夢びらき」。荒事の開祖である初代市川團十郎の一代記で、2020年に単行本として出版されたものが昨年11月に文庫化されました。ちょうど團十郎襲名披露のタイミングでしたので、私も襲名披露興行を楽しみながら少しずつ拝読した次第です。読了は襲名披露興行から一カ月ほど飛び出してしまいましたが。

 

初代市川團十郎は荒事の開祖であり、元禄期の江戸歌舞伎の熱狂を生み出した一大スター。しかしながら、舞台の上演中に役者から舞台上で殺害されるという衝撃的な最期を遂げる人物でもありました。その規格外の人物像と半生を、初代團十郎の妻・恵以の視点を中心として描いています。松井今朝子先生は歌舞伎の世界を舞台としたミステリー作品が多いですが、今回はミステリー色は薄めです。

 

「荒事」や「襲名」など、いまでは歌舞伎のお約束になっている事柄も、元禄当時は革新的なものでした。それらがどのようにして始まり、人々の間に受け入れられていったのかを、まるで当時の熱気を体感するかのように味わうことができます。

歌舞伎界を描いた作品や資料はもう少し後の時代のものが多く、元禄期の芝居の世界を想像できる作品というのはなかなか珍しいと思います。なかば手探りで新たな仕掛けを一つ一つ作り上げていくようなようすを垣間見るのは非常に新鮮でした。

 

初代亡きあと二代目となった長男が抱える葛藤、そして成長も胸に迫ります。

松井今朝子先生のインタビューによれば、かつて十二代團十郎さんから直接「次はうちの初代の話を」とのお話があったのだそうです。そこから講演や執筆で團十郎の名跡との縁が生まれ、様々な資料に触れるうち、この作品が生まれるに至ったとのこと。

團十郎の名跡が内包している圧倒的なエネルギーと背負う宿命に思いを馳せ、このたび誕生した十三代と、八代目の新之助さんに心を寄せずにはいられません。團十郎襲名を機に初めて歌舞伎をご覧になった方や、久しぶりに歌舞伎をご覧になった方も多いのではないかと思います。そんな方々にも大変おすすめしたい一冊です。

 

大筋とはあまり関係ないのですが、身につまされる描写を一つ。

思えばこの界隈は見るもの聞くもの盛り沢山で、毎日がお祭りのように面白おかしく過ぎるから、一年なんかあっという間なのだ。

初代團十郎の妻・恵以の視点の言葉です。恵以は芝居界の裏に通じると同時に自身も芝居好きとして描かれています。

芝居通いの方にとっては、まさにこの言葉の通りではないですか…?芝居芝居と毎月浮かれているうち、気が付いたら歌舞伎座新開場から10年が経過していたという驚きが見事に言語化されていて、うううとうずくまりました。

松井今朝子先生 読書録

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