各地で梅雨入りとのことですね。みなさまいかがお過ごしでしょうか。台風も近づいているそうですので、どうぞお気をつけくださいませ。
このすえひろはといえば、天候不良ゆえの頭痛に悩まされております。耳を回すと良いと聞いたのですがうまくコツがつかめていないようで、思うような変化がありません。来たる六月大歌舞伎を万全に楽しめるようなんとかせねばと思います。
千穐楽は過ぎてしまいましたが、歌舞伎座で開催されていた團菊祭にちなみまして九代目團十郎の浮世絵をご紹介いたします。
豊原国周 新古歌舞伎十八番之内 弁慶・五郎時宗
豊原国周 新古歌舞伎十八番之内 弁慶・五郎時宗/国立国会図書館デジタルコレクション
明治期を中心に活躍した浮世絵師の豊原国周による「新古歌舞伎十八番之内」
九代目團十郎の当たり役を1枚につき2役配置した作品です。本当は3枚続き1組×3組で少なくとも9枚の作品だそうですが、どの組み合わせなのかははっきりしないようです。
そのため、今月上演された「寿曾我対面」にも登場する五郎時宗と、当代の團十郎さんも何度もお勤めになっている勧進帳の弁慶の描かれた1枚をご紹介しています。
九代目團十郎は、前回もお話した八代目團十郎の弟。自死により突如として兄を失い、養父であった河原崎権之助も殺害されてしまうという苦難の前半生を送っています。
しかし明治期に入り、歌舞伎役者の社会的身分の向上に尽力。明治天皇の前での勧進帳上演を実現しています。私たちが今見られる演目の多くに影響を与え、『劇聖』と呼ばれて崇められた存在です。
九代目團十郎は写真が残っていますので、この絵はだいぶデフォルメされているようだなとわかります。当たり役を集めた浮世絵だということは、いわばファンのコレクターズアイテムであったのだろうと思いますから、現代でも多少の補正はなされることでしょう。
具体的には、実際の九代目よりも福々しいふっくら感が加えられているように思われます。洗練されたモダンな線ではあるものの、役者絵の元祖である鳥居派の画風「瓢箪足に蚯蚓描」を思わせる力強さがあります。九代目の時代においてもそれが荒事役者の理想形であったことが窺えるおもしろい一枚です。