歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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吉例顔見世大歌舞伎 夜の部「松浦の太鼓」「鎌倉三代記」「顔見世季花姿繪」を見てきました! 2023年11月

11月も終盤に迫ってまいりましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。

このすえひろはといえば、今月は定額制サービスを利用して、用事の合間にちょこちょこと芝居を楽しんでおります。定額制サービスはあまりにもお得なので、すぐに終わってしまうのではないかなあと危惧しておりましたが、今のところコンスタントに続いていてありがたい限りです。今後もぜひ続きますように…。

さて、先日のお話ですが、吉例顔見世大歌舞伎の夜の部を拝見してまいりました。備忘録として少しばかり感想をしたためておきたいと思います。

梅枝さんすごすぎる 本当に初役ですか

夜の部は「秀山十種の内 松浦の太鼓」「鎌倉三代記」「顔見世季花姿繪」という狂言立てです。「顔見世季花姿繪」は、春調娘七種・三社祭・教草吉原雀の舞踊三題で構成されていました。

 

秀山十種の内 松浦の太鼓」は、昨年の南座の顔見世に続き仁左衛門さんが松浦候をお勤めになっています。仁左衛門さんの松浦候はくるくるとご機嫌が変わり、その都度表情や目の色も変化するのですが、胸の奥には常に浅野内匠頭の無念を思っていることが伝わるようなお芝居で、グッと胸に沁み入りました。お天気屋の松浦候に懸命に仕えている家臣たちが、意図を測りかねて右往左往しているさまも愛らしかったです。松緑さんの大高源吾も真に迫ったお芝居で、この物語の下には生死をかけた一念が敷かれているのだということが良く伝わってきて、松浦の太鼓で初めて涙が出そうになりました。

 

今月は吉右衛門さんの祥月命日ということもあり、冠されている「秀山十種の内」の文字列がなんともいとおしく映ります。私はこの演目が大好きで、吉右衛門さんのお勤めになった役の中で一番好きなのも松浦候でしたので、ドン、ドンドンドンドンドン…と聞こえてくる太鼓に、「三丁陸六ツ一鼓六足天地人の乱拍子」というセリフ、何度聞いても興奮を禁じ得ません。仁左衛門さんの松浦候のお姿、お声に重なって、今でも吉右衛門さんのあのお声が聞こえてくるようです。

宝井其角に歌六さん、ぬいに米吉さんというゆかりの深い配役で、仁左衛門さんを含め舞台の上のみなさま、また客席も、吉右衛門さんの残像が胸に浮かんでいるのだろうなと想像できるあたたかな時間でありました。

 

続く「鎌倉三代記」は、歌舞伎の三大お姫様「三姫」のうちのひとつ時姫を、梅枝さんが初役でお勤めになっています。梅枝さんがとんでもなくお上手というのは周知の事実だと思うのですが、それでもたまげるほどの仕上がりで、これが初役なのかと思うともう本当に「恐ろしい子…!」という言葉が出そうな時姫でした…。

一つ一つの所作にものすごく細かい決めごとがあるのだろうということが窺えて、一体関節が何個あるんだろうと。例えていえば、モノクロの記録映像を見ているような体験で、この上なく興奮しました。

そこでインタビューを拝読しますと、梅枝さんは舞台をお勤めになる際に四代目雀右衛門の舞台映像をご覧になるそうですね。四代目雀右衛門の全盛期を拝見できなくとも、今を生きている梅枝さんの芸を通じてその香りに触れることができるというのは、歌舞伎ならではの最高の体験ではないかと思います。梅枝さんと同世代に生まれたおかげで、これからどんどん深まる芸の境地をリアルタイムで拝見できるというのは歌舞伎ファンとしてこの上ない幸せです。

 

最後の「顔見世季花姿繪」は、三題を取り合わせた大変華やかな舞踊です。

春調娘七種は、静御前がお上品で可愛らしく、一体どなたかなと思ったら左近さんで驚きました。女形もとても素敵で、ぜひ今後も拝見したいです。三社祭は、巳之助さんと尾上右近さんが息ぴったり、ワクワクと心躍るひとときでした。こんな舞踊は一生見たいです。そして花道をダイナミックに使った又五郎さん孝太郎さん歌昇さんの教草吉原雀でにぎにぎしく終演という構成でした。

今月は顔見世らしく配役、上演時間ともにボリュームのある狂言立てでしたね。歌舞伎座を出ますと夜風が冷たく、ずいぶん夏が長かったけれども今年ももうすぐ終わるのだなあとしみじみ思います。

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