歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい本朝廿四孝 その四 十種香 ざっくりとしたあらすじ③ 箕作実は武田勝頼

ただいま浅草公会堂で上演中の新春浅草歌舞伎

毎年お正月に浅草の街をあげて上演されており、若手の花形役者の方々が古典の大役に挑戦する登竜門的な人気公演です。ここ10年ほど松也さんを中心とする世代の方々によって上演されていましたが、今回で次世代へバトンタッチされると発表されています。長年の集大成でもあり、第一部・第二部ともに古典の超名作が並んでいます。

第一部で上演されている「本朝廿四孝 十種香」も古典の超名作です。この機会に少しばかりお話いたしますので、芝居見物や今後のご参考としてお役に立つことができればうれしく思います。

十種香 ざっくりとしたあらすじ② 

本朝廿四孝(ほんちょうにじゅうしこう)は、1766(明和3)年1月に大坂の竹本座で初演された人形浄瑠璃の演目。近松半二や三好松洛といった作者陣による合作です。1766年のうちに歌舞伎に移されました。時代物と呼ばれるジャンルの名作です。

ざっくりとした題材は「武田信玄VS上杉謙信」の物語。そこに、斎藤道三の陰謀、諏訪湖を渡る狐の伝説、中国の故事、お姫様の燃える恋愛などのさまざまな要素が複雑に絡んできます。全五段にわたる長い物語なのですが、現在は主に四段目「十種香(じゅしゅこう)」「奥庭狐火(おくにわきつねび)」の場面が上演されています。

 

国立国会図書館デジタルコレクション
小倉擬百人一首 祐子内親王家紀伊 (小倉擬百人一首) 部分

 

今回上演されている「十種香」の場面について、ざっくりとしたあらすじをお話したいと思います。上演のさまざまな条件によって内容が若干変わることがありますので、その点は何卒ご容赦くださいませ。

 

十種香」の場面の前提情報と全体の流れは前回お話しておりますのでこちらをご参照ください。

www.suehiroya-suehiro.com

 

②では、亡き許嫁の勝頼を恋い慕う八重垣姫が、その絵姿によく似た花作り箕作を見て本物の勝頼なのではないかと高揚。濡衣に仲を取り持ってほしいと頼み込み、交換条件として「諏訪法性の兜」の話題を持ち出されたところまでをお話いたしました。

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諏訪法性の兜」とは、長尾謙信が返却せずにいる武田家の重宝。両家の不和のそもそもの発端となった品物です。

濡衣箕作との恋の取り持ちの条件として武田家の重宝を持ち出したということは、やはり箕作は本物の勝頼さまなのだと確信する八重垣姫。「もうこうなったら命をかけてでもこの恋を叶えたい、叶わないのなら死んじゃう!」と勢いづきます。

箕作がいくら人違いですと答えても、聞く耳を持ちません。それどころか、「本当に違うのであればそれはそれで恥ずかしくて生きていけないので、いずれにせよ今ここで死にます」と言い出します。

そこまで言われては、濡衣も本当のことを言わざるを得ません。「そうです、いかにもこの方こそが勝頼さまです」と明かし、それを聞いた八重垣姫は大喜びで思いを叶えるのでした。

 

とそこへ、館の主であり八重垣姫の父親・長尾謙信が、文箱を手に現れました。そして前もって命令していたとおり、箕作実は勝頼を塩尻へ向かわせる運びとなります。八重垣姫とのラブラブな時間もつかの間、箕作実は勝頼は颯爽と塩尻へ向かいました。

 

続いて謙信から呼び出されたのは、家臣の白須賀六郎原小文治です。いかにも戦に出るような、勇ましい出で立ちをしています。

「今この諏訪の湖に氷閉づれば渡海は叶はず。

 塩尻までは陸地(くがじ)の切所、油断して不覚を取るな」

と、二人に申し付ける謙信。つまり、「現在諏訪湖は凍っていて渡ることはできないだろう。塩尻までは難所だ、油断するなよ」というような意味合いです。

 

このやり取りを聞いていた八重垣姫は不審に思い、お父さま何事ですのと尋ねます。

すると謙信は「ああ、あれは武田勝頼の討手だ」と答えるではありませんか。エエェどうしてどうしてと取り乱す八重垣姫謙信は続けます。

「諏訪法性の兜を盗み出さんうぬ等が巧み、物陰にて聞いたゆゑ、勝頼に使者を言いつけ、帰りを待つて討ち取らさんと示し合はせし討手の手配り」

つまり、諏訪法性の兜を盗み出そうという企みを聞いた謙信は、箕作は本物の勝頼だと確信。討手を送って殺そうとしているのであります。

 

八重垣姫の必死の命乞いは聞き入れられず、濡衣は取り押さえられ、もはや万事休す…というところ。そんな緊迫したシーンで「十種香」の場面は終わってしまいます。

続く「奥庭狐火」の場面では八重垣姫がさらに爆走、諏訪法性の兜を手にした八重垣姫が狐の霊力を手にし、凍った諏訪湖を駆け抜けます。こちらについても、上演の機会がありましたらお話したいと思います。

 

参考文献:歌舞伎手帖 渡辺保/新版歌舞伎事典/床本 本朝廿四孝

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