歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい三人吉三巴白浪 その九 八百屋お七と三人吉三

ただいま歌舞伎座で上演中の

芸術祭十月大歌舞伎

夜の部「三人吉三巴白浪」は、歌舞伎屈指の名作として知られる人気狂言です。

お馴染みの芝居として冒頭の一場面のみを上演することも多く、

なかなか全貌が明らかにならない演目ですが、今月は通し狂言で上演されています!

奇数日・偶数日の配役替えでも注目を集めていますので、

先日まとめを作成いたしましたがさらにいくつかお話してみます。

何らかのお役に立てればうれしく思います!

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江戸の衝撃女性の筆頭・八百屋お七

三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)は、

節分の夜に巡り合った、吉三郎という名を持つ三人の盗賊が兄弟の契りを交わし、

親と子の複雑に絡み合った縁に翻弄されていく物語であります。

 

その八では、江戸時代に根付いていた「庚申信仰」という考え方が

物語の重要なキーワードとなっていることをお話いたしました。

実はこの物語にはもうひとつ、江戸時代の人々にとってはお馴染みの…

という要素が盛り込まれております。

 

それは「八百屋お七」という、実在したといわれる激情型の女性放火犯

お七は江戸本郷駒込の八百屋の娘さんであったのですが、

大火の際にたまたま避難した吉祥寺でお小姓さんと恋仲になってしまい、

恋焦がれるあまり「また火事が起きれば、あの人に会えるかもしれない…

との一心で、あろうことか町に火を放ってしまう…!という

予測不能かつ激しい感情を持った女性でありました。

 

お七は決して悪人であったわけではなく、

激しい純情からこのような行動に出てしまったわけです。

それが余計に哀しく、同時に狂気を感じます。

 

お七はすぐに捕らえられ火あぶりの刑になってしまったのですが、

あまりにも強烈なキャラクターであるために浄瑠璃や芝居などに数々描かれて、

江戸時代の人々にはお馴染みの存在となったのであります。

 

そんな八百屋お七がどのように三人吉三に生かされているのかと言いますと、

まずは和尚吉三・お坊吉三・お嬢吉三が共通してもっている「吉三郎」という名。

これは八百屋お七が恋焦がれた恋人の名です。

(お七をそそのかして放火させたならず者という説も)

 

そしてさらに、

八百屋の子として生まれてさらわれ、お七と言う名で育てられたのがお嬢吉三

お嬢吉三は振り袖姿などからも八百屋お七を思わせる要素が非常に強いキャラクターです。

 

吉祥院の場」「本郷火の見櫓の場」なども八百屋お七から踏襲されており、

江戸時代の人々が見れば「ああ、あれね!八百屋お七ね!」と

すぐにわかるようになっていたのだろうと思われます。

 

八百屋お七はそのセンセーショナルさでこれほど有名になったわけですが、

様々な演目を見るにつけ、古来より日本において、

恋する女性は常識では考えられないようなとんでもない狂気をはらんでいる…

可憐な乙女もスイッチさえ入れば、鬼にもヘビにもなってしまうほど恐ろしい…

などという、

女性に対する一種の幻想のようなものが根付いていたのかなあと推察されます。

 

そういった根強い思想を倒錯させてしまい

お嬢吉三という魅力的なキャラクターを作り出した

河竹黙阿弥は本当に天才だなあとつくづく感じます!

 

参考文献:歌舞伎登場人物事典/百科事典マイペディア/日本大百科全書(ニッポニカ)/朝日日本歴史人物事典

歌舞伎登場人物事典(普及版)

歌舞伎登場人物事典(普及版)

 

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