歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい三人吉三巴白浪 その十一 土左衛門伝吉の住まう「割下水」

ただいま歌舞伎座で上演中の

芸術祭十月大歌舞伎

夜の部「三人吉三巴白浪」は、歌舞伎屈指の名作として知られる人気狂言です。

お馴染みの芝居として冒頭の一場面のみを上演することも多く、

なかなか全貌が明らかにならない演目ですが、今月は通し狂言で上演されています!

奇数日・偶数日の配役替えでも注目を集めていますので、

先日まとめを作成いたしましたがさらにいくつかお話してみます。

何らかのお役に立てればうれしく思います!

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土左衛門伝吉の住まう「割下水」

三人吉三巴白浪(さんにんきちさともえのしらなみ)は、

節分の夜に巡り合った、吉三郎という名を持つ三人の盗賊が兄弟の契りを交わし、

親と子の複雑に絡み合った縁に翻弄されていく物語であります。

 

この演目は動乱のさなかにあり先の読めない江戸末期の市井の、

退廃的なムードのなかで生まれたものでありますので、

そのような気配がロケーションにも色濃く表れ、独特の色っぽさを醸し出しています。

 

その十では「大川端庚申塚の場」の舞台についての一説

JR両国界隈のゆかりの地をご紹介いたしました。

続きます「割下水伝吉内の場」も、この界隈にゆかりがありますので

この機会にご紹介したいと思います。

 

割下水伝吉内の場は、和尚吉三の父であり

夜鷹宿を営んで娘のおとせを働かせながら水死体の回向も行っているという

土左衛門伝吉が住まう若干おんぼろな家が舞台でありました。

 

題名に「○○内の場」とあれば「○○さんの家が舞台」という意味なのですが、

注目していただきたいのはわざわざ「割下水」と指定されていることであります。

そもそも「割下水」とは、現在の東京都墨田区本所に存在した掘割のことを指します。

鬼平犯科帳がお好きな方にはおなじみの地域かもしれません。

 

大きくJR総武線両国駅から錦糸町駅あたりのエリアはかつて水はけのわるい低湿地帯でした。

明暦の大火を受けた幕府は、隅田川東エリアの大規模な都市開発に乗り出す中で、

このエリアに南・北と2本の下水道を作ったのであります。

都市開発の中には両国橋の架橋も含まれており、

人々の流れが生まれる中で下水道を挟んで多くの人々が暮らすようになりました。

やがて下水道を使用して暮らしている宅地地域一帯そのものが

割下水」と呼ばれるようになったのであります。

割下水ではおとせのようないわゆる夜鷹と呼ばれる街娼たちも暮らしていましたが、

さむらいが暮らす武家屋敷もあり、なかなか興味深いエリアです。

 

この割下水はなんとあの葛飾北斎が生まれた土地としても知られており、

界隈では葛飾北斎を郷土の偉人として非常に大切にしておりますので

両国駅から錦糸町駅にかけての南割下水には「北斎通り」と名が付いています。

 

そんな北斎通りですが、現在はなにやらじわじわオシャレスポット化が進んでおり

素敵なカフェやパン屋さん、SNS映えするハンバーガー屋さんなどが開業して

行列をなす若い方の姿も見られます。

この辺りに割下水があり、立ち並んでいた長屋のなかで

あのようなドラマが描かれていたんだな…とは想像できない明るさです。

 

というのも、数々の大火、関東大震災、東京大空襲などで跡形もなく焼けてしまい、

区画整理などを行って何度も再生してきた地域であるためです。

歌舞伎座からは電車で20分程度の場所ですので、そんな歴史を噛みしめながら

銀座日本橋や浅草とはまた違った江戸風情をお楽しみください!

地図

参考文献:歌舞伎登場人物事典/百科事典マイペディア/日本大百科全書(ニッポニカ)/『東京江戸案内 歴史散策 巻の2 歌舞伎と落語篇』/『墨田区史跡散歩 東京史跡ガイド 7』/『隅田川随想 江戸の昔をたずねて』

歌舞伎登場人物事典(普及版)

歌舞伎登場人物事典(普及版)

 

今月の幕見席

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