ただいま歌舞伎座にて上演中の三月大歌舞伎
今月は各部で上演頻度の低いレアな演目が上演されていて、初めての方はもちろん歌舞伎好きの方にとっても貴重な機会ではないかと思います。
第二部「仮名手本忠臣蔵 十段目 天川屋義平内の場」もなかなか珍しい上演です。江戸時代よりのメガヒット作・仮名手本忠臣蔵は全十一段に及ぶ長い長い物語で、あらゆる名場面が繰り返し繰り返し上演されているのですが、その中では上演頻度が低いことで知られています。
仮名手本忠臣蔵の全体像について把握しておくとより楽しめるのではないかと思いますので、ひとつご紹介いたします。芝居見物や配信の際などのお役に立てれば幸いです。
仮名手本忠臣蔵とは?
仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)とは、元禄年間に起こった「赤穂浪士の討ち入り事件」を題材とした演目で、三大狂言のひとつに数えられる名作です。元は人形浄瑠璃で上演され、歌舞伎にも移されて、270年以上にわたり愛されている日本屈指のメガヒット作品であります。
赤穂浪士の討ち入り事件というのはざっくりといえばこのようなものです。
赤穂藩の浅野内匠頭が、江戸城の松の廊下で吉良上野介に切りつけたとして切腹。
翌年、大石内蔵助をはじめとする浅野内匠頭の家臣たちが敵討ちのため吉良邸に押し入り、吉良上野介を討ち果たす。
これら一連の物語を、
・浅野内匠頭…塩冶判官(えんやはんがん)
・大石内蔵助…大星由良之助(おおぼしゆらのすけ)
・吉良上野介…高師直(こうのもろなお)
というように名前を変え、様々なエピソードを盛りこんで劇化したのが仮名手本忠臣蔵です。
大星由良之助を筆頭とする塩冶家のさむらいたちが、なんとしても主君・塩冶判官の敵を討たんとするこころ、つまり「忠義」が物語全体の軸になっています。忠義一途のさむらいたちの艱難辛苦のエピソードが様々語られるわけです。
そんななかで、商人・天川屋義平を主人公としているのが十段目の物語です。天川屋義平は、あらゆる犠牲を払って敵討ちに使用する武器類を調達し、大星由良之助はじめ塩冶家のさむらい達を助けていた人物です。
「忠義はさむらいの象徴」というように語られていくなかで、当時の身分社会ではさむらいよりも下に据えられていた商人のなかにも、忠義を支える義侠心に満ちた男がいた…というのが熱いところなんですね。
現代のフィクションでいうと、TBSの日曜劇場的な世界観でしょうか。「天川屋義平は男でござる」という名セリフも大変ドラマチックですね。日曜劇場のように、働く人々を勇気づけていたのではないかなと思います。
仮名手本忠臣蔵 全体の流れ
「仮名手本忠臣蔵」全体の流れをご紹介いたします。こちらは2020年に行われたオンライン配信「図夢歌舞伎」の上演の際にお話したものです。
仮名手本忠臣蔵は全部で十一段あるたいへん長い物語です。すべてを把握せずとも十分楽しめますが、各場面の上演頻度が高く派生作も多いので、一度流れを把握しておくと何かと便利かと思います。