歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい菅原伝授手習鑑 道明寺 ざっくりとしたあらすじ③

ただいま歌舞伎座で上演中の二月大歌舞伎

十三代片岡仁左衛門二十七回忌追善狂言として上演されている

昼の部「菅原伝授手習鑑」は、三大狂言のひとつに数えられる名作中の名作です。

 

今月上演されているのは全五段にもなる長い物語の前半「加茂堤」「筆法伝授」「道明寺」の場面。

前回の上演は5年前ですので激レアというわけでもないけれども、比較的上演頻度は低めな場面といってよいかと思います。

と申しますのも、物語の後半に置かれているクライマックス「寺子屋」の場面の上演頻度が尋常でなく、

年に一度はどこかしらで上演されると言っても過言ではないのです。

 

歌舞伎の興行スタイルでは、この物語の事情は皆さんお馴染みなはず…という前提で、

いきなりクライマックスだけが上演されることが多くなっています。

それでも感動でき、なんかよくわからないがすごいぞ…!と思えるのも歌舞伎の醍醐味ではあるものの、

今月せっかく上演されているのですから、ぜひ全体の事情を把握していただきたいと思いました。

というわけで少し時間をかけまして「加茂堤」「筆法伝授」「道明寺」のあらすじをお話してまいります。

何らかのお役に立てればうれしく思います!

加茂堤

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筆法伝授

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東天紅!東天紅!

そもそも菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)とは、

1746年8月に人形浄瑠璃として初演されて人気となり、その翌月に歌舞伎化された演目。

天神様としておなじみ菅原道真の太宰府左遷と、

道真に大恩を受けた三つ子松王丸桜丸梅王丸の思いをからめつつ

さまざまな形での悲しい「親子の別れ」を描き出しています。

 

全ての悲しみの発端となる加茂堤の場面、

勘当した弟子の源蔵を呼び出し菅丞相が菅家秘伝の筆法を伝授するも

謀反を疑われ左遷が決定してしまう筆法伝授の場面を経て、

いよいよ前半のクライマックス道明寺の場面となります。

約2時間と長丁場で静かな展開ではありますが、

菅丞相の神々しさを筆頭に、見どころのたくさんある名場面ですので、

この機会にじっくりとお話してみたいと思います。

 

その②では、菅丞相暗殺を企む2人組土師兵衛宿禰太郎が登場し、

持ち込んだニワトリを使ってなにやら悪さをし始めそうだ…

しかもこの2人は菅丞相と親戚の関係にある…というところまでお話いたしました。

 

菅丞相はこの夜が明けたら、判官代輝国(はんがんだいてるくに)の迎えにより太宰府へ渡ることとなっています。

現代のような電波時計はおろか、標準時刻JSTなど存在しない時代ですので、

約束の夜明けを知るために頼りにされるのはニワトリの鳴き声

一番最初のニワトリが鳴けば夜明け方(八つ・午前二時ごろ)であろうという共通認識が前提としてありました。

逆に、夜に鳴くニワトリは宵鳴きといって、不吉なことを暗示すると考えられていたようです。

 

劇場で突然\コケコッコー/と元気なニワトリの鳴き声がしてきますと、

どうしてもおもしろくなってしまう方も大勢おいでですが、

洋の東西を問わず古来よりニワトリは闇夜の終わりを告げる神聖な鳥とされており、

歌舞伎の演目の中でも夜明けを伝える音として真面目に使われていますので、

そういったシンボルであるということを念頭に置いておくと便利かと思います。

 

と、そんなニワトリを悪用した菅丞相暗殺計画というのはこうです…

判官代輝国は一番鶏が鳴く午前二時すぎごろやってくる

②一番鶏が鳴く前にニワトリに宵鳴きをさせ、覚寿たちにも今こそ夜明けだと信じ込ませて

③にせの迎えをここへ来させ、菅丞相を連れ去り殺してしまおう

そのうえ、ニワトリに狙い通り宵鳴きをさせるため、

竹の筒にお湯を入れた上に止まらせ、ぽかぽかとした夜明けだと勘違いさせようという周到な手口です。

実際にそうなるのか生物学的根拠はわかりませんが、二人はうまくいくと信じています。

 

実は、二人がこういったとんでもない計画をべらべらとしゃべっているのを、

奥へ行ったと思われた立田の前が、物陰からこっそり聞いてしまっていました。

宿禰太郎は夫、土師兵衛は義父であり、立田の前の心中やいかばかり…

 

 

立田の前はこの計画をとても聞き逃すわけにはいかず、

夫と舅を差し止め、どうかどうか思いとどまってくださいと懇願します。

これを聞いた土師兵衛は、聞き入れるそぶりをしながらも宿禰太郎を促し、

聞き入れてもらえたと感謝する立田の前を無残にも切り殺させてしまうのです…!

 

 

立田の前宿禰太郎に後ろから切り付けられ、

声を立てようとするところを口に下着を押し込まれてとどめをさされ、

そのまま帯やたもとに重石を入れて池に沈められてしまったのでした…

どうして苅屋姫のやさしいお姉さんであり、

覚寿さまのような立派な母を持つ立田の前という女性が、

このような悪い義父、知恵も倫理観もない夫と縁を結ぶこととなってしまったのか…

彼女もなかなかの苦労人であったのだなと思われます。。

 

邪魔になった立田の前を殺してしまった二人は、さっそくに菅丞相暗殺計画を開始。

土師兵衛は箱のふたを船のようにして、池の上にニワトリを浮かべます。

ちょうど今、立田の前の死骸を沈めたので都合がよい、ニワトリは計画通りに宵鳴きするぞ…と言うのです。

 

これは一体どういったわけかと申しますと、近世の日本では、

ニワトリは水中に死者がいると、遺体が沈んでいる上でけたたましく鳴く」と信じられており、

水中の遭難者や雪崩の行方不明者などをニワトリを使って捜索していたからなのであります。

一種のおまじないなのですが、沿岸部を中心に全国各地で実際に行われていたことだそうで、

研究してみますと何らかの生物学的根拠が掴めるのかもしれません。

 

そういったわけで、ニワトリは立田の前が沈んでいる池の上ではばたきはじめ、

見事計画通りに\トーテコッコー(東天紅)/と鳴きだします!

土師兵衛と宿禰太郎は口々に「東天紅」「東天紅」と大喜び。

二人は一旦ここを離れてにせ迎えの準備に入り、舞台の上でも一つの区切りとなります。

 

東天紅(とうてんこう)」という言葉は、東の空が紅く染まる夜明けという意味を込め、

鳴き声の「トテコッコー(コケコッコー)」に漢字にあてたもの。

すえひろなどは東天紅と聞けば上野や両国にある立派な中華料理店を思い浮かべてしまいますが、ニワトリ及びその声のことを指しています。

この一連の場面もニワトリが象徴的であることからそのまま「東天紅」などと呼ばれております。

 

先ほどニワトリは神聖なものとされてきたと申しましたが、 

そんなニワトリも面倒になれば深く考えずに殺してしまうのが宿禰太郎。

まもなく到来するにせの迎えに、大切なる菅丞相は連れ去られてしまうのでしょうか、

菅丞相の運命やいかにというところで次回に続きます!

 

参考文献:新版歌舞伎事典/歌舞伎オンステージ菅原伝授手習鑑/歌舞伎登場人物事典/十五代目片岡仁左衛門より 芸談集/ 境界の鳥 ――ニワトリをめぐる信仰と民俗――小池 淳一

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