歌舞伎ちゃん 二段目

『歌舞伎のある日常を!』 歌舞伎バカ一代、芳川末廣です。歌舞伎学会会員・国際浮世絵学会会員。2013年6月より毎日ブログを更新しております。 「歌舞伎が大好き!」という方や「歌舞伎を見てみたい!」という方のお役に立てればうれしく思います。 mail@suehiroya-suehiro.com

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やさしい新薄雪物語 正宗内 ざっくりとしたあらすじ②

新型コロナウイルス感染拡大防止の影響で三月大歌舞伎は全日程が中止に。

先月より、昼の部で上演される予定であった「新薄雪物語」のあらすじをお話しておりました。

今回は上演が叶いませんでしたが、古典の名作の一つですので、配役は変われどもいつの日か必ず上演されるはずであります。その際のお役に立てるよう、引き続きお話してまいります。

こまめに手を洗いながらこの難局を生き延び、いつの日か拝見できる日を心待ちにいたしましょう!

鍛冶屋

新薄雪物語(しんうすゆきものがたり)は、1741年(寛保元)5月に大坂は竹本座にて人形浄瑠璃として初演され、その3か月後に歌舞伎に移されて京都の早雲座で初演された演目。

17世紀に刊行された人気小説であった仮名草子の「うすゆき物語」や、それに続いて出版された浮世草子の「新薄雪物語」を題材としたものであります。

 

本当にざっくりとお話いたしますと、

①若い男女が互いに相思相愛になるのだが、

②いろいろあって天下調伏の疑いをかけられてしまい、

③それぞれの父親が命をかけて二人を守ろうとする

というものです。桜の花の咲き乱れる美しい舞台のなかで繰り広げられる、重厚な悲劇であります。子が親のために命を差し出す芝居はたくさんありますが、親が子のために…という芝居は割と珍しいものです。

 

主軸はシンプルなのですが人間関係はいろいろと複雑。詳しいことはさておいて、登場人物の見た目でどんな人なのか判断しながら見ていくと内容がわかりやすくなるのでおすすめです。

ここまでは先月上演される予定であった花見・詮議・広間・合腹の順に、舞台の上で起こるはずのことを少し詳しくお話してまいりました。

このあとには正宗内という場面が続きます。毎回上演されるわけではない比較的レアな場面ですが、せっかくですのでこちらも併せてお話してみたいと思います!

花見」はこちらで

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ここまで「恋に落ちた薄雪姫園部左衛門を守るため、それぞれの父親が命をかける」という悲劇が展開されてきましたが、そういえば、発端の場面花見に出てきた刀鍛冶の団九郎来国俊はいったいどうなったのでしょうか?

団九郎秋月大膳の手下となり影の太刀に天下調伏の鑢目を入れた人物、来国俊は若君の守り刀を打つ依頼を受けて影の太刀を打ち上げた来国行の息子で、父親からは勘当を受けていた人物でしたね。

正宗内ではこれまでと雰囲気ががらりと変わり、この二人に関する物語が展開してゆきます。

 

①は、団九郎が「息子の身でありながら父の正宗を勘当する」という聞いたこともない状況から始まりました。村の人々のとりなしで団九郎は父の正宗の勘当を許し、なにやら大切そうな刀箱を取り出したところまで進んでおります。

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団九郎が取り出した刀箱に入っているのは、まさしく花見の場面で来国行が清水寺に奉納した影の太刀。団九郎が盗みだし、鑢目を入れたあの影の太刀であります。

団九郎が父の正宗に対してえらそうに言うのは、来国行が亡くなってしまったため、この影の太刀を手本にして急いで太刀を作れと六波羅から直々の依頼があったんだからな。勘当も許してやったぞ、親父、ありがたく思えよ!というようなこと。

 

正宗が蓋を押し開くと、まさしく来国行が打ち上げた見事な太刀が入っていました。

実は来国行というのは、正宗の刀鍛冶の師匠・国吉の息子。師匠の息子が打ち上げた見事な太刀を見た正宗は「さすがだ…あっぱれ見事…」と感じ入り、「この正宗はここまでの技には及ばないが、及ばぬながらも太刀を打ってみせよう!」とやる気スイッチをめきめきと押されます。

 

それを聞いていた団九郎も「よい了見!」と盛り上がり、奥にいると思われる弟子の吉介に対し「鍛冶場の掃除をしろ、親父の身を清めるためのお風呂の支度をしろ」などといろいろと口汚く命じました。

そして父の正宗から刀箱を取り上げて足蹴にして、のっしのっしと奥へはいって行ってしまいます。

 

団九郎というのはなんだか横暴で嫌な男ですけれども、そもそも団九郎が影の太刀を盗み出すような真似をしたのは、父の正宗から刀鍛冶の技を習いたいからなのです。

刀鍛冶の技は基本的に口伝でシークレットに伝えられていくものなのに、正宗はまだそれを団九郎に仕込んであげていませんでした。どうにかして正宗の心を動かして刀を打たせ、その技術を盗んでやろうと思っていたのでした。

 

美人の妹のおれんさんはさんざんな目に遭ったお父さんの正宗を気遣いますが、正宗にとってはあのような団九郎でも、やはりかわいい息子であるようです。

それを聞いてほっとしたおれんさんは「腰をさすってあげましょう」と提案、正宗もそれを喜び、ゆっくりと親子でお話しすることにして二人も退座しました。

 

 

とそんなところへ、奴を伴ったさむらいが訪ねてきたようです。

このあたりで次回へ続きます!

 

参考文献:新版歌舞伎事典/床本集/増補版歌舞伎手帖/歌舞伎登場人物事典/日本大百科全書(ニッポニカ)

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