ただいま歌舞伎座で上演中の四月大歌舞伎!
昼夜ともに古典の名作と華やかな舞踊が並んだ狂言立てで、歌舞伎が初めての方にも見やすい内容なのではないかと思います。しかし昼夜で雰囲気はがらりと変わります。上方のドラマチックで濃厚な演目をじっくりとご覧になりたい方には昼の部を、江戸の軽やかな味わいを楽しみたい方には夜の部がおすすめです。
昼の部で上演されている「双蝶々曲輪日記 引窓」については、過去に上演された際にいくつかお話したものがあります。内容の拙い古い記事もありお恥ずかしいのですが、何らかのお役に立てればうれしく思います。
引窓は歌舞伎と聞いて多くの方が連想するような派手さはないものの、大変に味わい深く、このすえひろも大好きな演目です。登場人物もそれぞれ魅力にあふれ、心が温まります。時代劇や義理人情の物語がお好きな方にはぜひにとおすすめしたいです。
そもそも双蝶々曲輪日記とは
双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)は、1749年に大坂竹本座にて人形浄瑠璃として初演されたお芝居。江戸時代のスター職業のひとつである、おすもうさんが主役であります。
物語に登場する二人のおすもうさん「濡髪長五郎」と「放駒長吉」の名前からふたつの長の字をとって、「双蝶々(ふたつちょうちょう)」とついています。
物語そのものは全部で九段の長いものですが、今日では人気の場面「角力場」「引窓」がそれぞれ単独で上演されることが多いです。今回の上演は物語の後半にあたる「引窓」です。
「引窓」のあらすじ
「引窓」はスター力士濡髪長五郎が、恩ある御贔屓を思うがゆえに図らずも殺人犯となってしまい、逃亡中に母親のもとへと立ち寄ったところで起こるドラマです。家庭の事情は少し複雑ながら、登場人物それぞれの優しさが交錯する、胸に染み入るようなホームドラマです。
ざっくりとあらすじをご紹介したのがこちらの回です。上演のタイミングや諸々の事情により内容が前後したり変更されたりする場合がありますのでご了承ください。
放生会のいまむかし
「引窓」の場面は放生会の夜という状況設定が非常に重要です。放生会と言っても現代人にとってはあまり馴染みがないかもしれません。江戸の人々にとってはどういったイベントだったのかをご紹介したのがこちらの回です。
「角力場」のざっくりとしたあらすじ
「双蝶々曲輪日記」には「引窓」の前日譚として「角力場」の場面があります。どちらも見ておかないとお話がわからないということはありませんのでご安心ください。
しかし「角力場」の内容を把握しておきますと、濡髪長五郎の人物像がよりくっきりとしてわかりやすくなりますので、あらすじをお話した回をご紹介いたします。一言で申せば「プロ力士の濡髪長五郎が、御贔屓への義理のため、アマチュアの放駒長吉にわざと負ける」という場面です。
なぜ濡髪は殺人を犯してしまったのか?
現行の上演では、「角力場」と「引窓」の間に当たる「難波裏」の上演機会が少なく、肝心の「なぜ濡髪は殺人を犯したのか」という事情が謎めいてしまっています。
濡髪が殺人に至った顛末と、実家を訪ねることにした事情、それらがよくわかる「難波裏」の場面について簡単ご紹介したのがこちらの回です。ご一読いただきますと今回の引窓の場面の味わいがより深まるかと思います。
江戸時代の窓事情 江戸と上方
「引窓」の場面の重要キーワードはなんといっても窓です。内容とは全く関係ありませんが、江戸時代の引窓について江戸と京大坂の事情を調べてみたのがこちらの回です。
「引窓」ゆかりの地
演目のゆかりの地をストリートビューで巡ってみたのがこちらの回です。
フィクションであるにもかかわらず、「引窓南邸跡」という石碑が現実世界に設置されているというおもしろい現象が起こっています。昔の人も聖地巡礼的な楽しみ方をしていたのかなとおもしろく思います。